よく使われる「動悸」という言葉、その意味を教科書や辞典あるいは医学書で正確に調べてから使うという方は多くないでしょう。動悸は何を示していて、どんな意味をもつのでしょうか。今回は動悸という言葉を入り口にしてストレスや循環器系の疾患(心臓や血管の病気)について考えてみます。
<目次>
1.動悸とは?
2.動悸には様々なことが影響する
3.ストレスと動悸との関係
4.映画のワンシーン
5.医師からのアドバイス
動悸とは?
動悸とは心臓の鼓動を感じる時に使われる言葉で、「ドキドキ」と表現されることが多いようです。病院を受診するような症状として言い換えてもらうと、心臓の鼓動が強く打つ、速く打つ、リズムが乱れている、脈が飛んでいる、というようなことが多く、胸が圧迫されたり胸が痛い状態で鼓動を感じても「動悸」という言葉が使われることがあります。さらには胸の違和感・不快感や息切れ・呼吸苦や、関西で使われる「しんどい」・北海道東北で使われる「こわい」という言葉(方言)にかわって使われることもあります。
つまり「動悸」という表現には、循環器系疾患の胸部症状のほとんどすべてが含まれるということなのです。実際に循環器内科を初診する新規患者さんが訴える症状の半数近くは動悸であると言われています。様々な病気の可能性について考えていかなければなりませんが、動悸という症状があっても緊張や神経の興奮であったり身体の生理的反応の範囲内であり、治療を必要とするような病気ではないこともあります。
動悸には様々なことが影響する
動悸はどんな時に起こり何に影響を受けるのでしょうか。走ったり階段を昇るなどの運動中や運動後に起こることがあります。精神的なストレスがかかった時や怒った時泣いた時にも起こります。過労・睡眠不足や脱水など身体の状態変化から起こってくることもあれば、貧血や発熱あるいはその他の病気が影響していることもあります。これらは動悸の原因となっていることもあれば動悸を悪化させるように影響したり、動悸が起こるきっかけになることもあります。そして悩ましいことに、何にも影響されず前触れもなく突発的に動悸だけが起こることもあります。
ストレスと動悸との関係
精神的なストレスは交感神経の緊張状態をもたらすことで動悸に影響を及ぼします。治療が必要な病気ではなく動悸という症状がでるだけのこともありますが、ストレスは身体に、特に循環器系の病気を引き起こしたり悪影響をおよぼします。高血圧や不整脈の原因になることが多いのですが、さらに重大な病気に繋がることもあるためストレスがかかっていて動悸症状がある場合には医療機関で診察や検査を受けることが望ましいです。
医学的な性格行動分類に、A型行動と呼ばれるものがあります(血液型のことではありません)。イライラしがちで攻撃的で競争心や野心があり時間に切迫しているという特徴です。日本人ではかつて仕事中毒などと言われたような、会社への責任感から自己犠牲をして仕事を抱え込んでいるような人です。常に強いストレスを抱えいるにもかかわらず、ストレスへの自覚は少ないという特徴があります。A型行動の人は、対するB型行動(のんびりマイペース)の人に比べて心筋梗塞や心臓病の発症が明らかに多いという研究結果も出ています。
映画のワンシーン
精神的なストレスが強くかかった瞬間に発作が起きて倒れ、救急車で運ばれるというようなシーンが映画やテレビではよく描かれています。これは医学的にありえることなのでしょうか?
答えはYESです。精神的なストレスが強くかかると、多くの場合は交感神経の過緊張(異常興奮)状態となります。急激な心拍数の上昇や血圧の上昇が引き起こされ、これは数秒以内・瞬間的にも起こり得ます。この急激な変化は大動脈解離や大動脈瘤破裂を引き起こし、脳動脈に影響がおよぶことで脳出血もおこします。血圧や脈拍の変動は動脈硬化プラークを破綻させることで血管の閉塞も引き起こし、脳梗塞や心筋梗塞の原因にもなります。交感神経の過緊張が致死性不整脈を出現させたり、心筋に直接作用して「たこつぼ型心筋症」の原因となることも知られています。これらは高血圧を含めて基礎となる心臓や血管の病気を持っていた場合に起こりやすいですが、基礎疾患がなくても起こるものもあります。ここであげたような病名はすべて重大な救急疾患であり、場合によっては急死する可能性もあります。誰かの目の前で起これば、まさに映画のワンシーンのようになるのです。
医師からのアドバイス
動悸という言葉にはとても広い範囲の症状が含まれています。そしてストレスは良くない影響をもたらします。もちろん病気でない可能性もありますが、重大な心臓や血管の病気である可能性を考えなくてはなりません。そして、生命の危機となるような重大な病気の前兆であれば見過ごされることなく診断や治療につなげていく必要があります。医療機関を受診することや検査を受けることが大切です。大丈夫と言い切ることの方が難しく、生命の危機ではないこと、重大な病気でないことを診察や検査等でひとつひとつ確認していくという作業が必要になります。
院長・医師 藤井 徳幸